橋本紡『半分の月がのぼる空』8

「結婚して下さい」「はい」
言葉にすればほんの一瞬の出来事。
でも、その言葉を出すまでの積み重ねの時間はとても大切。
言葉を交わしてからの間もとても大切。

強い力。
時に、日常と名乗ったり、現実と名乗ったりしている。
強い力。
時間っていうこともあるだろう。
そうやって一瞬を過去のものにしていく。
でも、そうやって変わって行く過去が
思い出として積み重なっていく。
自分の両手でつかみ取った一瞬だからこそ、
永遠に消えない思い出になる。


5年生きることは医者が保証してくれた。
10年生きる事は奇跡が起こるかもしれないと言ってくれた。
もしかしたら、ほんの数パーセントの確率で20年も30年も生き続けてくれるかもしれない。
逆に、
僕自身が、事故だったり事件だったりに巻き込まれて先に亡くなってしまう可能性もないわけではない。
考えても切りがない、だからこそ、
今の気持ちに素直になり、偽る事無く気持ちを伝え合って行く。
そうやって積み重ねたものが2人だけの思い出になっていく。
いつか死ぬ事を悲観してはいけない、
受け止める耐えられる力強さを。