赤江瀑『遠臣たちの翼』

遠臣たちの翼 (中公文庫)

遠臣たちの翼 (中公文庫)

「元清五衰」

いつもの妖しい読後感が少ないように想った。同じ物ばかり求めても作者に悪いのかもしれないが……俺はこの作品では、内容云々よりも作者のマスメディアに対する考え方に興味を覚え。人の心の在り様まで方向付け左右する恐れのあるマスメディア。最近の事件と合わせて読みふと考えてしまう。

「躍れわが夜」

描写の美しさ、とりわけ色彩表現の豊さ美しさを感じた一作。テーマとしては前回読んだのと同じ世阿弥元清、っていうよりもこの短編集自体が能楽師世阿弥に憑かれた人々の話なんだろう。世阿弥のこの世の現身と思われていた人物の不可解な死。それに関わり、関わっていた様々な立場の人。その内の一人がいなくなり10年の時を経てまた戻ってくる……。その間に彼には何があったのか? 10年前の真相とは? これを全て明かすとミステリィになるんだろうが、この作者は明かさない。様々な謎を余韻に変えて物語は幕を閉じる蠱惑的赤江の世界……。

「しぐれ紅雪」

演じる人。相手が演じていると気が付く人。わがかまりがあるのは、仕方ないのかな……

「春眠る城」

故郷、帰るべき所ってのは結局場所ではなく心のある場所なんだろうな思い出と呼べる物が無ければ、出生地も故郷とは言えないだろうし、思い出というものがあるならば、そこが例え旅先でも帰る戻ると言う言葉を使う事が出来る故郷になるんだろう。故郷がたくさんある事は、ある意味いい事なのかもしれないな。

「日輪の濁り」

短編集を貫き通す背骨のようなもの……まだ俺の読めたなった部分があるのではないかと思わせる一編。生と死が織り成す妖しいまでの美しさ。俺を益々赤江ファンにさせる一冊。