サラ・ウォーターズ『茨の城』下

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

最後までよんで最初から言葉を拾い直すと、言葉のもつ深い意味に気づかされる。2人の一人称で交互に魅せられる物語。一人の思いだけではなくて、2人の視点があるから深まって感じる2人の思い。自分だけでは世界は完結しない。相手と2人だけでも完結はしない。でも相手と自分のことを常に考える。守りたい相手、自分以上に大切に思える相手がいる。心に活きている人がいる、あいたいと思う人がいる。そんな人に自分自身を偽らなければいけない恐怖。自分が信じていた人が自分を偽っていたことに気づかされる恐怖。そして心が通じ合ったことを感じる幸せ、この瞬間のためにすべてがつながっている。今自分が知っていることが根底から揺さぶられるような事実をもし見せられたら……。自分が信じていているよりどころが崩されたら。ちょっとしたきっかけで揺らぐくらいの安定度しか現実にはない。そんな世界でも活きていける。性別なんて関係ない、年齢なんて関係ない、仕事も技能も性格もあとから付いてくるものなのだろう、心が心に惹かれる。魂が魂を呼ぶ。決して忘れない。憎み愛する人