奥泉光『ノヴァーリスの引用』

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

何事もないところから物語は展開されていきます。どんな生き方をしようと、日常に謎は潜んでいます。その謎に気づくか気づかないかは謎の持つメッセージにもよるのでしょうか。そのメッセージに答えるかのように言葉を重ね物語を展開させていきます。普段の生活と同じような空気がここにはあります、だけどその謎が普段の生活とかけ離れているとそれはこの作品のような世界になるのかもしれません。生活からかけ離れているとはいえ、自然に語れることは生活に密着していることと同じなのです。今まで読んだことの無い雰囲気をもった小説でした。
今までいくつかの死に立ち会ってきました。死ぬことを初めて恐怖したのはいつだったのでしょう。思い出すと幼いころの思い出が一息によみがえってきます。生まれてくる人がいるからこそ、同じく死にゆく人もいます。死については漠然とは解っています。そうなんです、生を定義つけられないようにまた死も定義づけることはできません。ですが忘れて生きてはいけないのでしょう。それが死者を抱いて生きるということなのか、死を見めていきるということなのか、そうやって生死を決めてしまうことこそ危険な考え方ではあります。