乙一『さみしさの周波数』

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

想像力が形になる瞬間ってどんなときなのでしょうか? 物を作るときは、先に完成を想像して作ります。その間に細部を事細かに決めることと、決めずに大枠だけで進んでいくことのパターンに私は別れます。今まではどちらかというと後者の方で多く物を作っていました。作りたいところから作っていきあとで整えていく方法です。でもこの方法はより完成型が明確に見える人でかつその1つ1つをオブジェクトとして作れる人が向いているのかもしれません。遊びやゆとりを考えていないと手戻りが生じます。
これらの作品はどうだったんでしょうか? 最初からこの形が見えていたのでしょうか? それとも一瞬を大枠をゴールを決めて創りあげた言ったのでしょうか。想像します。文章の技術があるひとだなぁとこの人の作品を読む毎に思います。同じテーマ同じ切り口で描いたとしてもこの人が語るから優しく響いてくれることがあるんですよね。日常を見ている瞳が優しいんでしょうか。すべてを投げ出しているようで、何もかもに絶望しているようで、でも自分の大切なものはしっかりと抱えているようで、ここに納められた話は大長編が書けそうな話ばかりです。でもこれを一瞬にとどめて固めることが味わいなんです。
素直に後書きには面食らいました。大きさは同じなのに、方向が全く違う世界がここにはあります。このノリの文章はまた別な作品で読みたかったなぁと思いつつ。これもまた作者のサーヴィスなのかなと考えたりしています。