村松栄子『紫の砂漠』

紫の砂漠 (ハルキ文庫)

紫の砂漠 (ハルキ文庫)

人は人をどのようにして好きになるのでしょうか? 好きになる人とは生まれたときから決まっているのでしょうか? ただこの人がいてくれれば良い。そう思える瞬間は多くあります。心の底から湧き出てくる幸福感になんと名付ければいいのか解らなくなるような、名前を与えることですら過ぎた行動に思えてしまうような、瞬間です。それに殉じられず、何かしらの理由をつけてカッコつけて自分自身の気持ちから素直になれないことは、一生を引きずるくらいな思い出になってしまいます。
性別ですとか、文化ですとか、生まれた環境によってどうしようもないくらいに引きずってしまうものがあります。自分で選んだわけではないことが、周りによって決められたことをさも自分が決めたことのように思わされてしまう、不幸があります。ただこれにしても、見方によっては幸福なのです。選んだことを選んだ場所に置く。弱さは悪ではありません。どうしようもなく悲しくなることは多くあります。遠き未来を想像し、そこへ想いを馳せることは、この涙に色を付けてくれるような気がします。