森博嗣『捩れ屋敷の利鈍』

捩れ屋敷の利鈍 (講談社ノベルス)

捩れ屋敷の利鈍 (講談社ノベルス)

メビウスの輪という言葉を聞くと必ず思い出す物がある。小学生の頃にやったクラスの隠し芸大会で披露した手品だ。その時に私はこのメビウスの輪を用いた手品をやった。今思い返すと手品と言える程の手業は無かった。紙テープで作った輪、一回捩ってつけたメビウスの輪、二回捩ってつけた輪。これらの輪の中央をみんなの前で切ったのだ。 今の世界でならどうなるかの想像はつくのだろうけれども、あの頃はみんな驚いたようにみつめていた。最後にもらえた大きな拍手を今でも覚えている。

そのメビウスの構造を持つ密室での事件。NOVELS自体が黒い袋で閉じられている特別装丁。いつものシリーズとは彩りが違う作品。だけど、いつもの作者の世界。この一冊だけではなく、書かれた世界全てを通したものが作者にとっては一作なのだろう。作品数が増えていき、時間が流れるにつれて、増えていくパズルのような感覚。それらが集まって大きな1枚絵になっていく。これも1つであり、集められたものもまた1つ。ずっと読み続けたいと思える作者がいることは幸せだ。