森博嗣『六人の超音波科学者』

六人の超音波科学者 (講談社ノベルス)

六人の超音波科学者 (講談社ノベルス)

作品世界の奥の奥まで入っていこうとする自分と、その自分を遠く離れて見つめている自分。考えながら読み、読みながら考える。静かに読み進めていく。キャラクタの行動、作品の舞台、そこで展開される事件、それらをまとめて彩るようなものの本質、そこから感じ取れるような思考。テキストがすべてなのだけど、私が引こうとする境界線はそこにはないのだ。自らにはあまり関係はないのに、信じ願うこと、心配すること、私に出来ること、私が望むこと。今まで引いていた境界線が、一冊の本に影響を受ける。作品世界の奥に入り込むことよりも、それに触れたように感じた私が、次に何をしたいと思うか、どう活かしたいと思うか、これからどう生きていくのか。テキストが、そこから感じた思考が、自らの中に生きはじめた事を感じる瞬間が確かにある。すべての心は最後の一文へ向けてのステップのようなもの。私には、そのステップがたまらなく愛おしい。その愛情が最後の一文へのエネルギィになる。