長野まゆみ『少年アリス』

少年アリス (河出文庫)

少年アリス (河出文庫)

何を描写していると言えば一番しっくりと来るのだろうか? 風景とか雰囲気とか感情とか言うよりも、世界の音階や色彩みたいなもの、それも初めて触れる世界。作家が創る世界ってその人独特の物が多いけど、その中でもこの人が描き出すそれはとびきり。一つの物を表すのに、普段使わない作者独特の音感と文字を使う。文字が音になり、記号になり、気持ちになって、映像を描く。何故か読んでいてもの悲しくもあたたかい。好きになる作家。雑誌に撃鉄をあげられ、旅が引金を引いた作家。忘れられない一作になりそう。これだけの長さで、この独特の世界感を創る文章を俺も書いてみたい。