橋本紡『半分の月がのぼる空』6

日常が始まる。
僕達が待ち望んでいた日常が始まる。
何でもないことかもしれないけどね。
今まで死を見つめていることだけが日常だったのだけど、
生きてやりたいことが見つかると、日常が変わり始める。
一人の時間が長いと、アンテナが広がる。
死を見つめる時間が長いと、大切なものが明確になる。
何のために今の私がいるのかが明確になると、
独特の空気を放つようにもなる。


ほんの少しの違い。
いつかは死ぬってことを実感しているかいないかは。
心を預ける相手がいるかいないかは。
そのほんの少しが大きい。


有限の生。
明日かもしれないし、来年かもしれないし、何十年後かもしれないし、
確実に訪れるのが死。
その死に引きずられるのではなく、静かにそっと触れてみる。
心を決めるとき。
どこにもない、ここを選んだ瞬間。
知っているからこそ、選べるものがある。