京極夏彦『魍魎の匣』

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

見ることが出来るのは形だけです。形の最たるものが匣の外側なのでしょう。最初に目に入ってくるものもやはりその形ですから。それによって左右されるものは多くないのでしょうが、形に気を遣うゆとりがある人は概して中身もしっかりしている人が多いような気がします。生まれつきな面も多いのでしょうが、それ以外は自分が選び取ったことですからね。表情にしても刺激の受け取り方をどうしようと心がけているかにより決まってくるものでしょうし。持ち物も自分が好んで選んだ物ばかりです。ですが、外堀ばかりを埋めることに躍起になることで内側を後回しにすることや、内側を放っておく人もまた多くあります。平衡が崩れてくると不安定になり、ほんの小さな衝撃でも一気に無くなってしまいます。
内と外の境界線がこの匣なのでしょう。この匣は堅くしっかりしているようですが、自分の思い次第でいかようにでも変化でき多くの物事を十二分に取り込めるだけの許容量を持っています。自分が決めたものが匣でもちろんどちらが内でどちらが外かを決めるのもまた自分自身なのです。気を緩めると自分がいる場所から向こうへ連れて行かれることがあります。そんな所に取り憑こうとするのが魍魎です。自分の憑き物を自分で落とせる内はまだまだ大丈夫です。色んな夜はありますが、必ず私は立ち直ります。