森博嗣『工学部・水柿助教授の日常』

工学部・水柿助教授の日常

工学部・水柿助教授の日常

「ブルマもハンバーガも居酒屋の梅干で消えた鞄と博士たち」

どの視点で物事をとらえ、どの順番で出力していくか、自らの内側に秘めるものはいったい何なのか。何でもない話に謎を感じるのも人ならば、色んな表情を見せる謎の本質が収束するように思うのも人。作者の声が普段の小説よりもエッセィの方に近い気がした。

ミステリィ・サークルもコンクリート試験体も海の藻屑と消えた笑えない津市の史的指摘」

何を小説として、何をエッセィとするんだろうか。面白ければそれでいい、気持ちよく読めて、何度も読み返したいフレーズやシーンがある。それに出会えることが本との出会いの幸せ。俺に足りないもの、様々な物事を結びつけて考えること。

「試験にまつわる封印その他もろもろを今さら蒸し返す行為の意義に関する事例報告および考察(「これでも小説か」の疑問を抱えつつ)」

俺は何を読んだんだろうか、小説? エッセィ? 何か話題がとっても身近で面白い、俺が受けとる面白さ、この人の文章でないと得られない悔しさ。どうしようもない主観が混じるあの感覚、上手に切り替えられない。今年もこの作家にはついていきます。

「若き水柿君の悩みとかよりも客観的なノスタルジィあるいは今さら理解するビニル袋の望遠だよ」

タイミングの難しさ。理由無き選択っていうのもあるんだろう、いったい何であの時あんな選択肢を選んだのかって後になって悩んで、タイミングがそうだったからとしか答えが見つけられないような、ある種自分自身から逃げているようなそれ。どれだけ近しい関係でもミステリィは存在する。人間関係だけじゃないのかもしれないな、どうやって殺すかどうして殺すかってことじゃないミステリィ。日常のあらゆる出来事を表したようなエッセィも、いやこれは小説か……。この境界線を引くのは、自分でしかない。

「世界食べ歩きとか世界不思議発見とかボルトと机と上履きでゴー(タイトル短くしてくれって言われちゃった)」

本当に心から感謝したい人はいますか? 跪いて捧げたいものはいったい何ですか? 形あるものを創りあげるための形なき力。自分自身の限界を求める能力と努力よ。ものの見方がとっても心地よい人がいる。全く同じ視点ではないからこそ、その人の視点に意識を飛ばし価値観に刺激を受ける。素的だなって思う所は積極的に見習う。どこを良しとするかは俺の自由。この自由だけは譲れない、譲らない。