西澤保彦『念力密室!』

「念力密室」

シリーズの一気買い。最新作は買わずに一日に2冊を買う。これはその中の一冊、その中の一作。3人のやりとりの変化が読んでいくうちに変化しているのが感じられ、これが全ての最初って事をおもってよむと、面白い。謎の出し方やそこへの誘導方法、ミスディレクションの配り方なんかも好きだけど、やっぱりこのシリーズの最大の魅力はキャラクタにあるんじゃないかな。絶妙のバランス感覚と、にんまりさせられるイラストは、読んでいてとっても気分が良い。

「死体ばベランダに遭難する」念力密室2

いつもとは方向の違う一人称、同じシチュエーションでも誰からストーリィをみるかによって感じて来るものが大きく違う。もしこれをいつものパターンで見ていたらどうなっただろうか? もし三人称で見ていたらどうなったのだろうか? 一人称だから感じられる、そのキャラクタの感情の細やかな動き。相手に対する本意や素直な心。それがとっても面白い。人の心が最大のトリック

「鍵の抜ける道」念力密室3

文芸誌も、面白い小説はホント面白いんだねぇ、これだけ面白いのが読めると得した気持ちになってしまうよこの作品もそう、西澤保彦なんて今まで読んだ事が無かったのが勿体無くなる面白さ。面白い試みじゃぁないかなぁ、ミステリィに内在するSFの割合がね超能力ってものの存在を許してしまうとミステリィは崩壊するかと思っていたけど、上手く制限を設けて密室ものの短編に仕上がっている様々に張られた伏線、心地良いユーモア溢れるラヴテイスト死体や殺人を感じさせないのも一つの面白さなんだね。

「乳児の告発」念力密室4

うっわぁ〜想いもしなかったラストシーン、ミステリィの醍醐味(? )読者を安心させないラストシーン素直に進んでいると想わせつつもラストで何時の間にか最初に繋がっている、最初の記憶がまざまざと呼び起こされる一種のホラー小説かもしれない、読んだ後叫び声を上げたくなってしまった。トリックなんてものよりももっと大きな、そうただの日常に潜んでいる恐怖と言ったところ。

「鍵の戻る道」念力密室5

この短編好きだな。トリックに超能力を加えるとこういう密室物語が出来あがる、サイキックと言う特殊能力を加える事によってミステリィの味わいがまた異なった深いものになる。このシリーズはキャラクタ同士の会話を一つ一つ追いかけていくのがまた面白い。今回は一人称で語られているので、その色がより濃かった様に想う。毎回色々な面を見せてくれる短編シリーズ。読んでてあきれる位の犯行動機で絶対居るはず無いと思える様なものなんだけど、あってもおかしくないなって思えてしまう、現在の御時世。

「念力密室F」

Fは何の略なんだろうか……これはある意味シリーズなんだけど番号はつけられない作品。あった事なのか、夢なのか、を曖昧にぼかす事でそんな印象がさらに辛くなる。夢の夢の夢、未来も過去もそこには無い。時はあるのだけど、思わせることの多い話は読んでいて、面白いどことなくスケッチのような文章シリーズのもう一つの顔。