竹本健治『匣の中の失楽』

匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

読中に味わう奇妙なまでの読後感。この小説は終わりと見れる所が沢山あり、はじまりもまた同じくらいある。言いかえるとこの小説は終わらないのかもしれない。一つのストーリィがもう一つのストーリィを取り込んで内包しているのかと思えば逆の関係もまた同時に成立している。どちらが現実でどちらが虚構なのか読み進める度に不安になる。俺自身の視点からこの小説を読むときの不安感は最大のものがあるのかもしれない。実際今生きているこの世界でさえ現実であると言える保証は無いのかもしれないのだから……そういう考え方が作中の膨大な学問的知識によってより強いものとなる。リアリティがあることが現実なのではない、さりとてあるのもまた同様。己の視覚を揺らされる心地良さと気持ち悪さ。